最後へ向けて

晃「コレが最後の戦か」
雪乃「･･･学園祭まで休んだら？」
晃「なんで？」
雪乃「だって、幻覚見るぐらい疲れてるみたいだし」
晃「気にするな、慣れた」

今も視界の端にちらちらといるが、最早背景の一部と言う扱いだ。
人間、どんな状況にもなれるものだからな。

晃「俺自身は別に構わん」
雪乃「私も私に害が無ければ構わない」

晃「アレは如何にかしろ」
雪乃「3人がかりでおさえても、アレだから・・・」

頭を抱えて見やる先
金髪の一部を朱に染めて泣き喚いているいい大人が其処に居た。

晃「幻覚よりうるせぇ大人がいればそりゃ霞むわ」
雪乃「なるほど・・・道理」
晃「で、ありゃぁどうした？久しぶりに強い発作みたいだが」
雪乃「帰ってきたとたんに厨房に走りこんでザクって行ったって。
　　　　理由は、知らない」
晃「訳分からん」

光の抜け落ちた瞳で見つめる雪女、げんなりとした表情であきれ返る剣士。
いい加減騒ぎにうんざりしたのか、メイド二人と土蜘蛛が抑える九尾乃へと歩み寄ると、
首の切り傷に向けて本気の回し蹴りを叩き込んだ。
余りに唐突過ぎて反応の遅れたメイドも、理解が追いつくと顔を青褪めさせて九尾乃へ応急処置をかねて
志乃神の追撃から守るべく立ち塞がる。

晃「いい加減うっとおしいわ！死ぬなら外でやりやがれ！！」
炎狐「っーーぁ！・・・・－－－！！」
晃「日本語、っつか言語を話せ。ぎゃーぎゃーワンワン子供か、きさまは」
炎狐「･････････････････････････刀を寄越しなさい」
晃「断る、汚して穢されたくない」
炎狐「じゃぁ包丁」
晃「自分で探せ」
炎狐「じゃぁこの三人に放すように言って」
晃「自分で説得しろ」
炎狐「じゃぁ―――」

殺して、と呟いた。
瞬間、メイドも、土蜘蛛も意に介さぬようにまとめて蹴りでなぎ払い、浮き上がったその首を掴み上げる。
傷口ごとギリギリと締め上げるように片手でその身体を持ち上げると

晃「他の奴らが優しく止めてたら調子に乗ってナニ嘗めた事ぬかしてんだ、お前は？」
炎狐「ッ･･･ッは」
晃「金になりもしねぇ殺しを俺に頼むか、胸糞悪い仕事を俺に押し付けようってか？」
炎狐「・・・・・・」
晃「頭、冷やして来い！！」

締め上げたまま、言葉に反して止めと言わんばかりに、力任せに塀の中に叩きつけて埋め込む。
流石にその衝撃には耐え切れなかったか、手を離すと九尾乃はくず折れるように地面に倒れこんだ。

晃「まぁ、幸いなことに、能力者ってのはそう簡単にくたばらねぇ」
雪乃「・・・やりすぎ」
晃「自殺しねぇ程度に痛めつけてしばっときゃ良いだろ。
　　冷静になる時間ぐらい稼げるさ。
　　祈、カナトぼさっとしてんな！縛って病室突っ込んでろ」
雪乃「それ、冷静に死のうとしたら？」
晃「戦場にぶち込む。特に死にそうな所に」
雪乃「最悪」
晃「知ってる」

慌てて担架で運び込む二人と、屋敷の中に駆け込む一人、応急処置についていくユキノを見送ると
誰も居ないことを確認して、自分の前に立つ幻影に話し掛けた。

晃「良くも悪くも、人は変わらん。屑は屑だ」
銃音「自分に言ってんの？」
晃「いーや、此処に住む全ての人間に、祝福の言葉を送ろうってんだ」
銃音「何て?」
晃「まとめてみんなくたばれ」
銃音「わーぉ、さいてー」
晃「よく言われる」
銃音「知ってる、だって僕も俺だし」
晃「死にたがりは総じて屑に決まってるだろ」

無意味と知りつつ、目の前で笑う幻影を切り捨てた。